「新世代・次世代向けにファンが厳選」をうたい文句に、TM NETWORK ベストアルバム「Gift from Fanks T」「Gift from Fanks M」 が3/18に発売される。

昨年(2019年)は TM NETWORK デビュー35周年、しかも「劇場版シティーハンター」ヒットにより「Get Wild」(1987年)が注目され、その後も機動戦士ガンダム40周年に関連した森口博子・ LUNA SEA などによる「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」(1988年)カバー、「SEVEN DAYS WAR」(1988年)がアニメ映画「ぼくらの7日間戦争」挿入歌に起用、 TM NETWORK の話題が散発するタイミングでの、今回のベストアルバムリリースとなる。
TM NETWORK 最初のベストアルバム「Gift for Fanks」(1987年)が「Get Wild」ヒット直後のリリースであるように、ヒットあるいはアーチストが世間から注目されているときのベストアルバムは、ベストアルバムがそのアーティストの初心者向けの一面があることを考えると、リリースのタイミングとしてはベストであろう。

しかし「Gift from Fanks T」「Gift from Fanks M」 は、タイミングこそベストであるが、その内容はどうであろうか?
36曲ずつ合計72曲・税込8,800円という価格は、はたしてコピーのように TM NETWORK 初心者に優しい作品だろうか?
今回は FANKS (TM NETWORK ではファンをこう呼ぶ)による投票の結果を反映させた選曲(1位〜70位まで収録)。そして現在 avex 所属の TM NETWORK であるが、1984年のデビューから1994年の終了(活動停止)までは EPIC SONY 所属、かつ EPIC SONY 時代の曲が過半を占めることから、ソニー・ avex 両方のリリースになったのであろう。
1984年のデビューから1994年の TMN 終了までの間に、オリジナルアルバム8枚、ミニアルバム1枚、リプロダクト(リミックス)アルバム3枚に対し、1999年の再始動後のオリジナルアルバムは4枚、リプロダクトアルバム1枚と、 EPIC SONY 時代の方が圧倒的に音源が多い。更に avex からはオリジナルアルバム・リミックスアルバム各1枚しかリリースしていない。社長が小室哲哉を救った経緯もあるため、avex にも…、という事情が絡んでいるようにも思う。

しかしながらアルバム2種類リリースは、初心者向けとしては好ましくないリリース形態だと思う。

ベストアルバムはそのアーティストの初心者に向けての作品である。
そして、個人的にベストなベストアルバムは、中島みゆき「大吟醸」(1996年)と小田和正「自己ベスト」(2002年)だと考えている。
「大吟醸」は中島みゆきのキャリア21年の代表曲14曲、「自己ベスト」はオフコース時代からからの小田和正のキャリア32年の代表曲15曲を、1枚のCDに納めている。14〜15曲ではファンから「あの曲が入っていない!」という声が多数引き起こすものの、サブスクリプトのプレイリストが10曲程度であることを考えると、最大80分程度で全曲を聞くことが出来る「大吟醸」「自己ベスト」は、初心者に優しい作品といえる。
小田和正は後に、後述する3枚組ベスト「あの日 あの時」をリリースするが、その後も「自己ベスト」は売れていることがその証左であろう。

中島みゆきは「大吟醸」の後も、主題歌・挿入歌を収録したベストアルバム「大銀幕」(1998年)、シングル集「Singles 2000」(2000年)・「十二単〜Singles 4〜」(2013年)、そして「中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』」(2016年)をリリースしているが、いずれもCD1枚で構成されている。
一方、小田和正は「自己ベスト」の続編「自己ベスト-2」(2007年)ではCD1枚の構成であったが、2016年のベストアルバム「あの日 あの時」では3枚組のオールタイム・ベストアルバム形式を取っている。
「あの日 あの時」が3枚組でリリースされた背景には、初心者が「さよなら」(1979年)「言葉にできない」(1982年)「ラブ・ストーリーは突然に」(1991年)「キラキラ」(2002年)「たしかなこと」(2005年)「今日も どこかで」(2008年)が全て収録されたアルバムを望んだことにある。
「さよなら」「言葉にできない」「ラブ・ストーリーは突然に」「キラキラ」は「自己ベスト」に収録されていたものの、「たしかなこと」はシングル、「そうかな」(2005年)及び「自己ベスト-2」に収録、そして「今日も どこかで」はシングルと「どーも」(2011年)に収録されているために、初心者は3枚買う必要が出てくる。その負担を省いたのが「あの日 あの時」である。
また「自己ベスト-2」リリースから年月が経ち、その間に新たに書き下ろされた曲たちもあることから、ツアー「君住む街へ」も控えて、のタイミングで「あの日 あの時」をリリースした面もある。
ちなみに「あの日 あの時」に前後して、氷室京介「L’EPILOGUE」、T.M.Revolution 「2020 -T.M.Revolution ALL TIME BEST-」とオールタイム・ベストがリリースされている事象は興味深い。

TM NETWORK に以上の「初心者のリクエスト」を置き換えるとするなら、「Get Wild」「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」「SEVEN DAYS WAR」「LOVE TRAIN」(1991年、TM NETWORK 最高の売上枚数を記録した曲)、そして「I am」(2012年)などを収録したオールタイム・ベストこそ、初心者が望むアルバムだと考える。
だが、今回の2種類リリースは「Get Wild」と「SEVEN DAYS WAR」が別々のアルバムに収録されている。
両方買ってもらうためにあえて分けたのだろうが、結果的に初心者は2種類買う、という選択ではなく、お金がかかるから買わない、という選択肢をとる可能性を多分に含んでいる。
「新世代・次世代向け」であるなら、1〜3枚組に抑えるべきだった。
TM NETWORK の活動とは関連無くリリースされた「TM NETWORK SUPER BEST」(2008年)、2012年の活動再開時にリリースされた3枚組ベスト「TM NETWORK ORIGINAL SINGLES 1984-1999」のほうが、初心者向けベストアルバムにふさわしい状況である。

また、FANKS の投票結果を忠実に収録に反映した結果、オリジナルアルバム「SPEEDWAY」(2007年)からの選曲ゼロ。そして TM NETWORK の活動の特徴の一つである「既存曲を最新のサウンドで仕立て直す」リプロダクト作品のうち、「TMN CLASSIX 1」「TMN CLASSIX 2」(1993年)「DRESS 2」(2014年)から選ばれていない。
実は同じくファン投票によって選曲された、オフコースのベストアルバム「ever」(2015年)でも、同様の事態は起きている。
せっかくの多数曲収録のベストアルバムである、オールタイム・ベストアルバムに仕立てた方が良かったのではないか。
ファン投票の結果は35周年にちなんで35曲に抑え、3枚組なら余るであろう収録時間を35曲から漏れたアルバムの曲を収録、というスタイルが良かったように思う。
ちなみに渡辺美里も今年オールタイムベストを出すが、3枚組の予定である。

一方で、このままだと既に音源を持っているFANKSが購入しないと考えたのか、「Gift from Fanks T」にはデビュー当時に作られた未発表曲「グリニッジの光を離れて」、「Gift from Fanks M」 にはリプロダクトアルバム「DRESS」制作時につくられた未発表音源「Get Wild '89 (7inch Version)」をボーナストラックとして収録。また TM NETWORK 3人の2種類のメッセージも封入するという。
だがソニーも avex も、FANKS に配慮する以前に新世代・次世代がいかにこのアルバムを手にするか、配慮すべきだったと思う。
このままだとFANKSしか手に取らない「Gift for Fanks 2020」になりかねない状況にある。

TM NETWORK がソニーレコードから離脱した、2000年以降の作品が収録されたベストアルバムが存在しないことを考えると、2015年までの作品を網羅した今回のベストアルバムは貴重なものである。
だからこそ、もう少し練られたベストアルバムであって欲しかった。


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ファン投票によるベストアルバム「ever」からもれた、オフコースの曲達

小田和正ベストアルバム「あの日 あの時」に収録されなかった曲達






ベストアルバムが10曲では少ない。
アルバム化の際には、小田和正「あの日 あの時」みたいに、3枚組50曲でもいいと思われ。